
はじめに
ADHD(注意欠如・多動性障害)を抱える人にとって、自炊は「時間管理が難しい」「作業が長続きしない」「途中で飽きてしまう」といった壁が立ちはだかりがちです。忙しい日常の中で栄養バランスや安定した食事リズムを保つには、自己理解と実践的な工夫が不可欠です。本記事では、ADHDの特徴を前提に設計された「ミールプレップ術( meal prep)」を紹介します。作業を小さく分解し、日々の誘惑を避けつつ、味と栄養にもこだわる具体的な方法を、実例とともに解説します。
ミールプレップは「時間をまとめて作り置きする」手法ですが、ポイントは「継続のしやすさ」です。難易度を下げ、失敗を減らし、達成感を積み重ねる設計にします。以下の章では、ADHDの特性を踏まえた具体的なステップと、長期的に自炊を続けるための心構えを詳しく紹介します。
ADHDと自炊の課題を整理する
まずは、ADHDの人が自炊を難しく感じる代表的な要素を整理します。
- 作業の順序づけが難しい
- レシピを見ても、何を最初にするべきかが分からず時間が無駄になる。
- 注意が拡散しやすい
- 料理中に別の作業(洗濯、通知、SNSなど)に引き寄せられ、焦点が揺れやすい。
- 作業が長いと疲れやすい・飽きやすい
- 一度に多くをやろうとすると、途中で投げ出したくなる。
- ルーティンの欠如
- 毎日同じ動作を繰り返すことが難しく、習慣化が進みにくい。
- 食事の準備と後片付けの分離が難しい
- 掃除・片付けを後回しにしてしまい、心身の負担が増す。
このような課題に対して、ミールプレップは「小さな単位で完結する作業」「視覚的なガイド」「予測可能なルーティン」を提供します。大切なのは「自分に合った設計を行い、失敗しても修正可能な仕組みを作ること」です。
ミールプレップの基本原則
以下の原則を軸に設計すると、ADHDの人でも取り組みやすく、継続性が高まります。
- 小さなスコープで始める
- 1回の作業を「前準備・煮る・味付け・盛り付け・冷却・保管」という6つの短いステップに分け、1回30分程度で完了できる設計にします。
- 視覚的ガイドを活用する
- レシピカード・タイムライン・色分けラベルなど、視覚情報で迷いを減らします。
- タイムボックスの徹底
- 作業時間を区切り、ストップウォッチやスマホのタイマーを使って「今ここ」に集中します。
- ルーティン化とリマインダー
- 週間スケジュール・決まった曜日の同じ時間帯に作業するなど、繰り返しの行動を強化します。
- 食材の処理はシンプルに
- 下処理を最小限に、包丁の使い方や火加減は初心者向けの範囲に抑えます。
- 味・満足感を損なわない工夫
- 一度に複雑な味付けを追わず、基本の味付けを揃え、飽きにくい組み合わせを選びます。
- ストックの回転を意識する
- 使い切るサイクルを作ることで、腐敗リスクを減らし、献立の決定を容易にします。
これらを組み合わせると、料理のハードルを低くし、日々の自炊を現実的なものにします。
実践ステップ1:準備と設計
まずは全体像を描く「設計フェーズ」です。以下のステップで、あなたの生活リズムと嗜好に合わせたミールプレップの設計図を作成します。
- 目的と制約を明確化
- どの程度の頻度で作るか(週1回まとめて、週3回分割、 daily など)。
- 食事の希望(肉類中心、菜食、低糖質、アレルギー対応など)。
- 家具・キッチン設備の現状(冷凍庫の容量、オーブンの有無、電子レンジの利用可否)。
- 食事のパターンを決める
- 朝食・昼食・夕食の基本パターンを3つ用意します(例:和風・洋風・中華風の定番メニューを切り替える)。
- 栄養バランスのチェックリストを用意する(たんぱく質・野菜・穀物・脂質・食物繊維の適切な比率を目安にする)。
- 作業リストとタイムラインを作成
- 30分、45分、60分など、作業時間の上限を設定します。
- 「下ごしらえ」「煮る/焼く」「盛り付け」「保存」の順序を固定化します。
- 道具と材料の最適化
- 使いやすいキッチンツールを選定します(大きめのボウル、使い勝手の良い包丁、計量スプーン、ラップ・保存容器)。
- 食材は長持ちするものと下処理が楽なものを優先します。例:鶏むね肉、豆類、野菜の冷凍ストック、缶詰など。
- ミニルーティンの設計
- 作業前の5分ルーチン(掃除/道具の準備/手洗い)。
- 作業後の5分ルーチン(容器のチェック/冷蔵庫の整理/後片付け)。
設計フェーズの目的は、迷いを減らすことと、あなたの生活リズムに「自然に適合する」ルーティンを作ることです。
例:3つの基本パターン
- パターンA(忙しい平日向け)
- 朝食:ヨーグルト+フルーツ+グラノーラ
- 昼食/夕食:冷凍ストックの一品+副菜2品(野菜サラダ、味噌汁)
- パターンB(糖質を控えたい人向け)
- 朝食:卵+アボカド+野菜スティック
- 昼食/夕食:鶏むね肉と野菜の炒め物+豆腐入り味噌汁
- パターンC(ボリューム重視)
- 朝食:オムレツ+野菜
- 昼食/夕食:ミートソースと野菜のグリル、玄米
これらはあくまで設計の出発点です。あなたの嗜好に合わせて微調整してください。
実践ステップ2:作業の分割とタイムボックス
ADHDの人にとって、作業を「大きな塊」で捉えると挫折しやすくなります。そこで「タイムボックス」と「分割作業」が有効です。
- タイムボックスの基本
- 作業を20〜30分のブロックに分割します。その後5分の休憩を挟むと、集中力が回復しやすくなります。
- 30分ごとに区切ると、全体の作業量が見えやすく、途中で放棄するリスクを低減します。
- 分割作業の具体例
- 下ごしらえ(野菜のカットなど)15分
- おかずの煮込み・炒め(主菜1品)20分
- 副菜(野菜の副菜1〜2品)15分
- 保存・冷却・容器詰め(5〜10分)
- 作業の順序を固定化
- いつも同じ順序で動くと、脳が「次は何をするか」を探さなくて済みます。例えば「まず野菜を洗い、次にカット、次に肉を下味、最後に煮物を火にかける」という順序を厳守します。
- 失敗しても再開が容易な仕組み
- すべてを完璧に揃える必要はありません。材料が少し不足していても、代替レシピを用意しておくと再開が容易です。
具体的なタイムライン例(30分×3セット)
- セット1(30分)
- 野菜の下ごしらえ(玉ねぎ・にんじん・ピーマン)
- 鶏むね肉の下味づけ
- セット2(30分)
- 鶏肉を焼く/煮る
- 野菜のサブおかずを一品作る(例:蒸しブロッコリー)
- セット3(30分)
- 副菜の仕上げ(煮物・味付け)
- 容器詰めと冷却
タイムボックスを導入するコツ
- スマホのタイマーをセットして作業開始・終了を厳守する
- 作業中は通知をオフにする「集中モード」を活用
- やるべきことが多い時は、最初の2ブロックを「最重要タスク」に設定する
実践ステップ3:味と栄養のバランスを崩さない工夫
ミールプレップは「作る」ことが目的ではなく、「食べる」を継続することが目的です。味の満足感を維持しつつ、栄養バランスを崩さない工夫をします。
- 定番の味付けを固定して変化を楽しむ
- 基本のソースは3種類程度に絞り、同じ材料でも味を変えることで飽きを防ぐ。
- 例:しょうゆベース、トマトベース、和風だしベースの3系統
- 風味づけの工夫
- にんにく・しょうが・柚子皮・ごま・香草などを「最後の仕上げ」で加えると、香りと満足感が増す。
- 栄養バランスのチェックリスト
- 1食あたりのタンパク質、野菜、穀物、脂質を意識する
- 野菜は色とりどりを意識して、ビタミン・ミネラルの幅を確保
- 「味が濃い・薄い」の感覚を標準化
- 味が薄いと感じたら、少量の塩・醤油・出汁で微調整。味の濃さは、冷めても再現できるように記録しておく。
例:3つのベースソース
- 鶏むね肉のしょうゆベース煮
- 醤油・みりん・酒・生姜で煮る
- トマトと豆のベース
- トマト缶・玉ねぎ・にんにく・レッドキドニー豆・オリーブオイル
- 和風だしベース
- 昆布だし・醤油・みりん・酒・野菜の煮物
これらを組み合わせるだけで、同じ食材でも違う味を楽しめます。味付けの変化は、脳の刺激を保ち、継続のモチベーションを維持するのに役立ちます。
実践ステップ4:ストックと回転の仕組み作り
長期的には「ストック回転の仕組み」を作ることが自炊の継続性に直結します。材料の購入、下処理、保存、消費の一連の流れを、ルール化しておくと迷いが減ります。
- 食材のストック管理
- 常備しておくべき食材のリストを作成します(冷凍鶏むね肉、豆類、缶詰、冷凍野菜、卵、米など)。
- 週ごとに在庫をチェックし、足りないものを補充する。
- 保存容器とラベルづけ
- 冷蔵・冷凍保存用の耐熱・密閉容器を使い分ける。
- 容器には日付と内容物をラベル付けする習慣をつける。これにより「いつ作ったか」「何が入っているか」が一目で分かります。
- 回転ルール
- 1週間ごとに使い切るリズムを作る(週末に在庫を点検し、次の週の材料を準備)。
- 古い食材は優先的に使用する、廃棄を減らす工夫をします。
- 冷凍ストックの活用
- 肉や野菜を小分けにして冷凍すると、急な予定変更にも対応できます。
- 解凍は電子レンジや流水解凍を活用し、時間を短縮します。
ストック回転の利点
- 食材の無駄が減り、経済的
- 予定が崩れても、すぐに代替メニューが組み立てられる
- 気分次第で「今日はこの味にしたい」という選択肢が増える
実践ステップ5:日常の習慣化のコツ
長期的に自炊を続けるには、習慣化が鍵です。ADHDの特性を理解したうえで、習慣化を促進する具体的な戦略を紹介します。
- 小さな達成感を積み重ねる
- 完了タスクを「ここまでできた」という実感につなげるため、毎回の作業を小さく区切る。
- 24時間以内の達成を日々カウントするなど、可視化する方法を取り入れる。
- 視覚的な進捗管理
- 完了した作業をチェックリストで可視化。色分けラベルを使うと視覚的に進捗が分かりやすい。
- 定期的な振り返り
- 週に1回、何がうまくいったか、何が難しかったかを短く記録する。改善点を次週の設計に反映する。
- 環境の工夫
- キッチンを清潔に保ち、使う道具を手の届きやすい場所に配置します。
- 音楽やポッドキャストなど、作業中に集中をサポートする音環境を整える。
- 自分へのご褒美
- 週の達成に対して小さなご褒美を設定します(好きな飲み物、映画鑑賞、ゆっくり入浴など)。
習慣化のコツまとめ
- 「毎日30分」など、現実的な時間枠から始める
- 失敗を恐れず、再開のハードルを低くする
- 変化は小さく、段階的に進める
- 自分のペースを尊重し、焦らず進む
具体的なミールプレップ例
以下に、実際に取り組みやすいミールプレップの例を3つ紹介します。いずれもADHDの特性を踏まえ、短時間・分割・再現性を重視しています。
例1:1週間の食事を「1回の作業」で整えるパターン
- 準備(30分)
- 野菜の下ごしらえ(人参、玉ねぎ、ピーマン、ブロッコリー)
- 鶏むね肉の下味(醤油・にんにく・生姜・ごま油)
- 主要作業(30〜40分)
- 鶏肉の焼き物を4〜5枚分焼く
- 野菜の蒸し煮1品作成
- 副菜・盛り付け(20分)
- ひじきの煮物・卵焼きなどの副菜を作る
- 容器に区分して詰める
- 保存
- 日付ラベルを貼り、冷蔵または冷凍に保存
- 回復と反省
- 使い切るサイクルを確認し、次回の計画に落とし込む
メリット
- 週の初めに全体像が見えるため、食事の用意が楽になる
- 食材の無駄が少なく、栄養バランスが保たれる
デメリット
- 初回は準備に時間がかかることがある
- 変更が難しい場合がある
例2:1日分の「私の好き」が詰まったミールボックス
- 朝
- フルーツとヨーグルトのボウル
- 昼
- 鶏むね肉の照り焼き+野菜のサラダ+ゆで卵
- 夜
- 煮物(豆類と野菜)+雑穀米
- 保存・再加熱
- 容器ごと電子レンジで温めるだけ
ポイント
- 自分の好きな味を3系統に絞ると飽きにくい
- 冷凍ストックと冷蔵保存を使い分ける
例3:お弁当向けの冷凍ストックと解凍パターン
- 事前準備
- 野菜の下処理と下味付き肉の小分けパックを作成
- 作業(30分)
- 2〜3品の冷凍ストックを作成
- 解凍・仕上げ
- 出先で解凍して、温め直して盛り付ける
- 保存
- 冷凍庫での保存期間を守る
これらの例をベースに、あなたの嗜好・季節・ライフスタイルに合わせてアレンジしてください。
よくあるつまずきと対処法
ミールプレップを始めると、以下のようなつまずきが出ることがあります。対処法を併せて紹介します。
- 「時間が足りない」という悩み
- 週の初めに「設計と下準備」を集中して行い、日中の作業を短く保つ。30分のブロックを複数組み合わせて柔軟に組む。
- 「味が同じで飽きる」という問題
- ベースソースを3種類用意し、野菜の組み合わせを変える。香辛料や調味料を少量ずつ追加して変化をつける。
- 「片付けが億劫」というネック
- 作業の最後に必ず1分間の片付けタイムを設け、容器をすぐに洗う or 洗い物を先に終わらせる。
- 「計画倒れになる」という課題
- 週次の振り返りを実施し、何がうまくいって何が難しかったかを記録。次週の計画に反映させる。
よく使うツールと材料リスト
- 保存容器・密閉容器(冷蔵・冷凍用)
- ラベル用マスキングテープとペン
- 計量カップ・スケール
- 高品質包丁と砥石(安全性を重視)
- タイマー(スマホ・キッチンタイマー)
- 調味料セット
- 醤油・みりん・酒
- 味噌・出汁(顆粒・粉末)
- オリーブオイル・ごま油
- 唐辛子・香草・にんにく・しょうが
- 食材のストック
- 鶏むね肉、豆類、卵、冷凍野菜、缶詰(トマト・ツナ・豆類)、米・玄米
- 調理器具
- 鍋・フライパン・蒸し器・ボウル・計量カップ
- レンジ対応皿・キッチンペーパー
あなたのキッチンと生活スタイルに合わせて、必要なものを調整してください。
まとめと今後の展望
本記事では、 ADHDを持つ人が自炊を楽に、継続的に、しかも楽しく行えるミールプレップ術を紹介してきました。重要な点は以下のとおりです。
- 小さく分割した作業とタイムボックスで集中を保つ
- 視覚的・定型的なガイドを用いて迷いを減らす
- 味と栄養のバランスを崩さず、飽きを防ぐ工夫をする
- ストックと回転の仕組みを作り、日常の意思力に頼りすぎない設計にする
- 習慣化のコツを使い、失敗を成長の機会に変える
今後の展望としては、以下を検討してみてください。
- 自分専用のレシピカードを作成する
- 週ごとに3つのパターンを設定し、カードとして保管しておくと迷いが減ります。
- アプリやノートを活
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