
はじめに:なぜ「視点のスイッチ」が武器になるのか
ADHDエンジニアにとって、バグの洗い出しやテスト設計は
「集中力が切れる」「同じ画面を見続けると飽きる」「細かい抜け漏れが出る」、
といった特性と正面からぶつかる場面になりがちです。
しかし、これは「才能が足りないから」ではありません。
同じ視点に長くとどまるのが苦手なだけです。
だからこそ、あえてその特性を活かして
意図的に視点を切り替えながらバグとテストを探す
——これがこの記事で扱う「視点のスイッチ」です。
ADHDエンジニアがハマりやすいバグ・テストの落とし穴
まずは、よくあるつまずきポイントを整理しておきます。
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自分が書いたコードを「正しい前提」でしか見られない
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同じテスト手順を繰り返すうちに、注意力が急速に落ちる
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「ここは大丈夫だろう」と思ったところほどテストを飛ばす
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テストケースを書き出す前に実装に戻ってしまう
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バグを見つけても、原因調査の途中で別のタスクに飛びがち
これらはどれも、
**「今の視点に飽きる/固定される」**ことから起きる問題です。
だからこそ、意識的に
「違う視点に飛び移るためのスイッチ」を用意しておくことで、
ADHDの特性を「マイナス」から「探索力の高さ」というプラスに変えられます。
視点のスイッチとは何か
ここでいう「視点のスイッチ」とは、
同じコードや画面を、別の立場・別の目的・別の時間軸から見直すための仕掛け
のことです。
視点の例
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ロール(役割)の視点
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実装者 → テスター → ユーザー → ビジネスサイド
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テストレベルの視点
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単体テスト → 結合テスト → E2E → 探索的テスト
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時間軸の視点
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今日起きるバグ → リリース後1ヶ月後に炎上しそうなバグ
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環境・条件の視点
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正常系 → 境界値 → 例外系 → ネットワーク切断 → 負荷状態
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ADHDエンジニアは、
一つの視点に長時間ロックされるよりも、
いくつかの視点をテンポよく切り替えていく方が力を発揮しやすい傾向があります。
視点スイッチ①:ロールプレイで「自分以外の人」になる
1. ユーザー視点チェック
実装者モードのままだと、
「仕様通りに動くか」しか見なくなりがちです。
そこで、あえてこう切り替えます。
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「初めてこの画面を触るユーザーとして触ってみる」
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「説明書を読まない人」として操作してみる
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「急いでいる人」「ミスしがちな人」になりきる
このとき意識したいポイント:
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迷うボタンや文言はないか
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入力エラー時のメッセージが意味不明になっていないか
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想定外の順番で操作しても、画面が壊れないか
2. バグハンター視点(他人のコードだと思って読む)
自分のコードだと「きっとうまく書けているはず」と思い込みがちです。
そこで、あえてこう宣言します。
「これは、見知らぬエンジニアが書いたコードだ」と思って読む
チェックするのは例えばこんな点です。
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変数名・関数名で勘違いしそうなものはないか
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エラー処理が**「TODO」「あとで書く」**のままになっていないか
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複雑な条件分岐にテストが当たっているか
「他人のコードをレビューする」つもりで見ると、
同じコードなのにバグの匂いを嗅ぎ取りやすくなります。
3. 未来の自分視点
ADHDの特性として、
「今の興味」に強く引っ張られ、
「未来の自分」が困るイメージが湧きにくいことがあります。
そこで、あえてこう問いかけます。
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「3ヶ月後の自分が、バグ報告を受け取ったらどこが辛いか?」
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「このログメッセージで原因にたどり着けるか?」
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「テストコードの名前だけで、どんなケースか想像できるか?」
未来の自分を守るつもりでログ・テスト名・コメントを整えると、
結果的にバグ発見コストも下がります。
視点スイッチ②:テストレベルを切り替える
単体テスト → 結合テスト → シナリオテスト
同じ画面・同じAPIでも、
見るレイヤーを変えると見えるバグが変わります。
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単体テスト視点
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関数・メソッド単位で
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引数のパターン
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返り値
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例外発生
をチェック。
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結合テスト視点
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モジュール同士の連携で
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型やフォーマットのズレ
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APIレスポンスの変更
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DB書き込み忘れ
などを確認。
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シナリオテスト視点(E2E)
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「ユーザー登録 → ログイン → 設定変更 → ログアウト」
など、実際の利用シナリオでテスト。
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ADHDエンジニアにとっては、
「同じことを延々やる」のが苦手なので、
一定時間ごとにレベルを切り替えるのがおすすめです。
例:
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25分:単体テスト集中
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5分休憩
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25分:結合テストに視点変更
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5分休憩
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25分:E2Eテスト、というようにブロック分けする
視点スイッチ③:マインドマップで「テスト抜け」を可視化する
文章や表だけでテストを考えると、
ADHD特性上「読むこと自体」に疲れてしまいがちです。
そこでおすすめなのが、
マインドマップによるテスト観点の洗い出しです。
マインドマップの作り方(シンプル版)
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中央に「機能名」を書く(例:ログイン機能)
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枝を伸ばして
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正常系
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異常系(パスワード間違い・存在しないユーザー)
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境界値(文字数ギリギリ・記号混在)
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環境の違い(スマホ/PC、ブラウザ差)
などを並べる
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さらに枝分かれさせて
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入力制限
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エラーメッセージ
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ログ出力
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セキュリティ(ロック回数、CSRFなど)
を付け足していく
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視覚的に広がっていくので、
**「あ、ここテストしてなかった」**という気づきが得やすくなります。
視点スイッチ④:チェックリストとテンプレートで「脳の負荷」を下げる
ADHDエンジニアは、
「毎回ゼロから考える」「全部を頭に乗せる」
という状況だと一気に疲れてしまいます。
そこで、チェックリストとテンプレートを用意しておくと非常に有効です。
例:画面テスト用チェックリスト
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入力必須項目に空のまま送信したらどうなるか
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異常系メッセージはユーザーにとって意味が通るか
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スマホ表示でレイアウト崩れがないか
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リロード・戻るボタンで表示がおかしくならないか
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ネットワークが遅い/途切れたときどうなるか
例:APIテスト用チェックリスト
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必須パラメータが欠けた場合のレスポンス
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認証トークンが無効/期限切れの場合
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競合リクエストが来たときの挙動
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エラー時のログ出力内容
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予想外の大きな値/長い文字列の扱い
「考えるための土台」をテンプレート化しておくと、
視点のスイッチも素早く行えます。
視点スイッチ⑤:人を巻き込んだ「ペアテスト」「ペアデバッグ」
一人で集中し続けるのが難しいなら、
あえて人を巻き込むのも立派な戦略です。
ペアテスト
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一人が「操作する人」
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もう一人が「観察しながらチェックリストを見る人」
という役割分担をします。
操作しているときには気づけない
「今の動き、おかしくなかった?」
という違和感を、観察側の人が拾ってくれます。
ペアデバッグ
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ADHDエンジニアが「仮説をどんどん出す役」
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相手が「それを整理して検証順を決める役」
という組み合わせも効果的です。
「思いつく → しゃべる → 相手が整理する」
というループは、ADHDの発想力をかなり活かしやすい形になります。
視点スイッチ⑥:時間とエネルギーのマネジメント
どれだけ良い手法を知っていても、
エネルギーが尽きている状態では視点のスイッチは機能しません。
自分の「集中しやすい時間帯」をテストに充てる
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朝イチが一番頭が冴えているなら → テストやレビューを朝にまとめる
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夕方〜夜が集中しやすいなら → そこにデバッグを寄せる
ADHDの特性上、時間帯によってパフォーマンス差が大きくなりやすいため、
自分のピークタイムに「重い認知負荷の作業」を置くのがおすすめです。
短いスプリント+明確な区切り
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20〜25分集中 → 5分休憩
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「この25分はユーザー視点だけ見る」
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「次の25分はログと例外だけを見る」
のように、時間と視点をセットで区切っておくと、
「今、自分は何を見るべきか」が迷子になりにくくなります。
すぐ使える「視点スイッチ」ミニワーク
記事を読んだだけで終わらせないために、
今日から使えるミニワークをまとめます。
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ロールカードを3つ作る
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「ユーザー」「テスター」「未来の自分」と書いた紙や付箋を机に置き、
25分ごとにどれかを選んで視点を切り替える。
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テスト観点マインドマップを1機能ぶんだけ描く
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すべて完成させる必要はなく、「とりあえず思いつく枝」を5〜10個出すだけでもOK。
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自分専用チェックリストを1つ作る
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「画面用」「API用」「バッチ処理用」など、まずは1カテゴリでいいので10項目程度作る。
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ペアテストを1回だけお願いしてみる
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同僚に「15分だけ一緒に画面触ってもらえませんか?」と頼み、
一緒に動かしてもらう。
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おわりに:特性を責めるのではなく、設計する
ADHDエンジニアがバグやテストで苦戦するのは、
「集中力が足りないから」でも「能力が低いから」でもありません。
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同じ視点で長く粘るのが苦手
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興味が移りやすい
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パターンを変えると急に集中できる
という特性の設計をしていないだけです。
だからこそ、
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ロールプレイで視点を変える
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テストレベルを意識的に切り替える
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マインドマップやチェックリストで抜けを防ぐ
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人を巻き込んでペアテスト・ペアデバッグを行う
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自分のエネルギーが高い時間帯にテストを配置する
といった「視点のスイッチ」を準備しておくことで、
ADHDの特性はむしろバグ発見力・テスト設計力の強みに変わります。
あなたの脳の使い方は「間違っている」のではなく、
設計次第で武器になるということを忘れずに、
次の開発から、ぜひ一つでも新しい視点スイッチを試してみてください。
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